一生モノのスキルになる! 『文章を書く』ことの苦手を好きにかえる方法<連載第26回>
伝える力【話す・書く】研究所を主宰し、「文章の書き方」に関する著書も多い山口拓朗さんに書き方のコツを教わります。今回は、一瞬で読む人のハートをつかむ「つかみの書き方」について。
笑いも文章も「つかみ」が9割?
「つかみはOK」といえば、ダチョウ倶楽部の人気ネタのひとつです。「つかみ」とは導入部分のことで、お笑い芸人にとって「つかみ」で笑いを取れるかどうかは極めて重要です。導入部でお客さんのハートをつかむことができれば、笑いが生まれやすくなり、反対にハートをつかみ損ねてしまうと、その後は苦戦を強いられます。
「つかみ」の重要性は、お笑い芸人に限ったことではありません。小説、劇や映画の脚本、スピーチ、プレゼンテーションなど、あらゆることに通じます。もちろん、文章作成にも同じことがいえます。
たとえば、次の2つの文を見比べてみてください。
【例文1】
人の興味を引く自己紹介の方法についてお伝えします。
自己紹介が苦手な方は、どうぞ最後までお読みください。
実は、自己紹介で最も大事なのは「第一声」です。
【例文2】
ずばり、あなたの自己紹介は、人に興味をもたれていません。
少しどころか、まったく興味をもたれていない可能性も“大”です。
実は、自己紹介で最も大事なのは「第一声」です
例文1と例文2の書き出し(1、2行目)を読み比べたとき、どちらが、続きの文章を読みたくなりますか? おそらく、ドキっとさせられた例文2ではないでしょうか。例文1は良くも悪くも平凡です。両者の差が「つかみ」の差です。
その続きにどれだけ有益な内容が書かれていても、「つかみ(=書き出し)」の吸引力が弱ければ、読む人はそこで読むのをやめてしまいます。最後まで文章を読んでもらいたなら、徹底して「つかみ」にこだわり、その吸引力を高める必要があります。
「つかみ」の役割は、読む人の感情を動かすこと
もうひとつ例文をご紹介します。
【例文3】
スマホ利用者が増えています。彼らは朝から晩まで、四六時中スマホを利用しています。
【例文4】
スマホの奴隷になる人が急増しています。彼らは朝から晩まで、四六時中スマホに人生を支配されています。
例文3と例文4の書き出しを読んだとき、続きの文章を読みたくなったのは例文4ではないでしょうか。極めて平凡な書き出しの例文3に対して、例文4では「スマホの奴隷が急増しています」や「四六時中スマホに人生を支配されています」という強い言葉が使われています。思わずドキっとした人、ゾっとした人、あるいは「わたしはスマホの奴隷なんかじゃない!」と、反発したくなった人もいるでしょう。
いずれにせよ、例文4の書き出しを読んだ人は、「この筆者は、どうしてこんなことを言うのだろうか?」と、その理由が気になり、続きを読み進めてしまうのです。例文3と例文4の差も、先ほどと同様に「つかみ」にあります。
「つかみ」の成否は、読者の反応次第
以下は、文章の「書き出し」を読んだときの読者の反応例です。このような反応が得られているようなら、おおむね「つかみはOK」といえるでしょう。続きの文章を読んでもらえる可能性が高まります。
へえ!/スゴい!/なにそれ?/ホント?/いいね!/ドキドキする!/ワクワクする!/おもしろい!/えー!(驚き)/怖い!/気になる!/自分に関係ある話だ!/役立ちそうだ!/新鮮!/ゾっとする!/笑える!/なんだと!
ご覧のとおり、すべての反応に「!」や「?」が付いています。つまり、感情が大きく動いている証拠です。
人は「感情の生き物」です。感情が動くと興味がわきやすくなります。つまり、文章の書き出しでは、よくも悪くも、読む人に「!」や「?」で反応してもらう必要があるのです。
人間の「欲」を刺激すると「!」や「?」が生まれる?
では、どうしたら、読む人に「!」や「?」で反応してもらうことができるのでしょうか? そのアプローチがよくわからないという人は、人間の「欲」について知っておくといいでしょう。以下は、人間がもっているさまざまな「欲」の一例です。
得したい/損したくない/知りたい/体験したい/成長したい/不満・不安・ストレスを解消したい/痛み・悩みから開放されたい/安定したい/便利になりたい/気持ちよくなりたい/自信を持ちたい/時間をかけたくない/ムダを省きたい/お金が欲しい/○○(モノや人)が欲しい/○○(技術など)を高めたい/○○の結果を出したい/効率をよくしたい/カッコつけたい/努力したくない(ラクしたい)/〇〇に縛られたくない/自由でいたい/安心したい/評価されたい/賞賛されたい/優越感に浸りたい/人によく見られたい/仲間になりたい/刺激が欲しい/懐かしさを感じたい/若返りたい・美しくいたい/癒やされたい/モテたい/愛されたい/SEXがしたい
このように人間にはさまざまな「欲」があります。どの「欲」が強いか(弱いか)は人によって異なります。成長欲求が強い人もいれば、承認欲求(人から「褒められたい」「認められたい」と思う欲求)が強い人、物欲や金欲が強い人もいます。大事なことは、自分の文章を読む人が、どういう「欲」を強くもっているかです。強い「欲」が刺激されると、人の感情は大きく動かされます。
【例文2】
ずばり、あなたの自己紹介は、人に興味をもたれていません。
例文2の「書き出し」にドキっとした人は、「損したくない」「○○の結果を出したい」「カッコつけたい」「評価されたい」「賞賛されたい」「優越感に浸りたい」「人によく見られたい」などの「欲」を刺激されたのかもしれません。
【例文4】
スマホの奴隷になる人が急増しています。
例文4の「書き出し」にドキっとした人は、「不安を解消したい」「ムダを省きたい」「効率をよくしたい」「○○に縛られたくない」「自由でいたい」などの「欲」を刺激されたのかもしれません。
もちろん、情報伝達を目的とする実務文の「書き出し」で、読む人の興味を引く必要はありません。一方で、人の心を動かす必要や、共感を誘う必要があるときには、「書き出し」に工夫を凝らしましょう。「つかみ」を制するものは文章を制します。