一生モノのスキルになる! 『文章を書く』ことの苦手を好きにかえる方法<連載第20回>
伝える力【話す・書く】研究所を主宰し、「文章の書き方」に関する著書も多い山口拓朗さんに書き方のコツを教わります。今回は、見た目でストレスを感じる読みにくい「黒っぽい文章」について。
人も文章も見た目が9割?
文章を書くときに内容や書き方を気にする人は多いですが、文章の見た目を気にする人はあまりいません。しかし、わたしたちが思っている以上に文章の見た目は重要です。以前『人は見た目が9割』という本がベストセラーになりましたが、人だけでなく、文章にも同じことがいえます。
見た目で「読みにくい」と思われてしまうと、それだけで内容が頭に入りにくくなります。なかには「読みにくいなあ」とストレスを感じて、読むことをやめてしまう人もいます。どれだけ内容や書き方がすばらしくても、読む人にストレスを与えたり、苦労を強いたりする文章は“悪文”です。
「黒っぽい文章」は読みにくく、「白っぽい文章」は読みやすい。文章を書くときには、この原則を意識しておきましょう。
「黒っぽい文章」とは、文字がギュっと詰まって、全体が黒っぽく見える文章のこと。一方、「白っぽい文章」とは、適度に余白があり、視覚的な圧迫感が少ない文章のことです。
わたしたちが文章を書くときには、内容や書き方と同じくらい、見た目に注意を払わなければいけません。
「黒っぽい文章」と「白っぽい文章」を比較すれば一目瞭然
「黒っぽい文章」と「白っぽい文章」の例文を比較します。
【メール文章(原文)】
お世話になっております。株式会社BUNSHOの山田太郎です。
早速ご返信を頂き、誠に有り難うございます。
研修後に実施する懇親会にもご参加頂けるとの事。御多忙の中、調整頂き、心より感謝申し上げます。
研修タイトルですが、社内で協議した結果、「リーダー力向上研修」に決定しました。拝聴できる事を、今から楽しみにして居ます。
なお、事前に配布するレジュメにつきましては、10月21日(水)の正午迄に御送信頂けると助かります。
ご多忙の所、恐れ入りますが、どうぞ宜しくお願い致します。
おそらく、あなたも読みにくいと感じたことでしょう。文章は決して破綻していませんし、言葉足らずな点や、ムダな情報が盛り込まれているわけでもありません。
読みにくい原因は、その見た目にあります。このメール文章は、読む人に圧迫感を与える「黒っぽい文章」に該当します。
では、「白っぽい文章」を目指して修正してみましょう。
【メール文章(修正文)】
お世話になっております。
株式会社BUNSHOの山田太郎です。
早速ご返信をいただき、誠にありがとうございます。
研修後に行う懇親会にもご参加いただけるとのこと。
ご多忙のなか、調整いただき、心より感謝申し上げます。
研修タイトルですが、社内で協議した結果、
「リーダー力向上研修」に決まりました。
拝聴できることを、今から楽しみにしています。
なお、事前に配布するレジュメにつきましては、
10月21日(水)の正午までにお送りいただけると助かります。
ご多忙のところ恐れ入りますが、どうぞよろしくお願いいたします。
「白っぽい文章」に変化した結果、格段に読みやすくなりました。原文との違いは一目瞭然。ストレスなく読み進められるほか、内容も頭に入りやすくなりました。
読みやすい見た目に必要な3つのポイント
修正文(白っぽい文章)が原文(黒っぽい文章)より読みやすく感じるポイントは以下の3点です。
ポイント1:早めの改行
修正文で最も長い行は31文字です。メールの場合、長くても「1行=35文字」を目安にしましょう。文章が横に長くなるほど「読みにくさ」が増し、読む人の心理的負担が大きくなります。
また、1行が横に長くなるほど「同じ行を再び読んでしまう」リスクも高まります。句点(マル)で改行できれば理想ですが、難しい場合は、読点(テン)を打つ位置での改行を検討しましょう。
ポイント2:空白の行の使用
情報の区切りごとに「空白の行」を挟むことによって、見た目の圧迫感が減るほか、「どこに何が書かれているか」を把握しやすくなります。「空白の行」は単なるムダではありません。視覚的なストレスを取り除き、文章の理解度を高めるという、極めて重要な役割を担っているのです。
ポイント3:漢字→ひらがなの変更(一部)
「頂き → いただき」「有難うございます → ありがとうございます」「御 → ご」「事 → こと」「中 → なか」「居ます → います」「所 → ところ」「迄 → まで」「宜しくお願い致します → よろしくお願いいたします」など、原文に使われていた漢字の一部を、ひらがなに変更しました。
漢字が多すぎると、どうしても「黒っぽい文章」になりがちです(印象は硬め)。「ひらがな」を増やすことで読みやすくなるようなら「白っぽい文章」への変更を検討しましょう。受ける印象も和らぎます。もっとも、ひらがなが多すぎると、それはそれで幼稚な印象を与えかねません。さじ加減には十分に注意しましょう。
ちなみに、漢字の使用率は一般的に20〜30%が適正といわれています。原文の漢字使用率は約36%と高めでしたが、修正文では約26%の適正範囲へと低下しました。適正値が感覚的に身につくまでは、自分が書く文章の漢字使用率を小まめにチェックしましょう(漢字使用率を簡単に調べられるサイトもあります)。
なお、修正文では、「実施する → 行う」「決定しました → 決まりました」「ご送信 → お送り」という具合に、二字熟語を用いた表現の見直しも行いました。二字熟語を含む漢語表現の使いすぎも「黒っぽい文章」の原因のひとつと心得ておきましょう。
見た目にも配慮できる人が、本当の文章上手!
メールに限らず、報告書、企画書、提案書などの実用文、さらには、チラシやDM、カタログ、ウェブ文章など、ビジネスシーンのありとあらゆる文章で「見た目」の良し悪しが問われます。
伝わる文章を書ける人は、内容や書き方のみならず、文章の見た目でも、読む人に気配りができる人です。とくにテキスト情報が氾濫する現代社会では、「黒っぽい文章」が煙たがられる傾向にあります。自分の文章は黒っぽいかも……と思ったときは、「白っぽい文章」を目指して修正を試みましょう。