一生モノのスキルになる! 『文章を書く』ことの苦手を好きにかえる方法<連載第12回>
伝える力【話す・書く】研究所を主宰し、「文章の書き方」に関する著書も多い山口拓朗さんに書き方のコツを教わります。今回はコミュニケーションツールとしての文章作成のコツについて。
相手の表情が見えないメールは誤解を招きやすい
私たちは言葉(言語)だけでコミュニケーションを図っているわけではありません。意識する・しないにかかわらず、言葉以外の「非言語情報」を使いながら、相手との関係性を築いています。
通常、対面であれば、お互いの表情や態度、声色などを感じながら、コミュニケーションを図ります。誤解や行き違いが生じたと感じたら、その場で言い換えたり、補足情報を伝えたりすることで、誤解や行き違いを防ぐことができます。
一方、メールでのコミュニケーションの場合、お互いの表情をはじめとする「非言語情報」によるコミュニケーションが一切行えません。そうなると、文章を書く上で誤解を招かないよう、より細かい気遣いや心配りが必要となります。
メールを書く時に、このような“難しいコミュニケーション”であるという意識が抜け落ちてしまった場合、思いもよらぬディスコミュニケーション(相互不理解)が発生してしまい、人間関係を壊すことさえありえます。今回はそうした「残念なパターン」を2つご紹介します。
パターン1:素っ気ないメールで相手の心証を害する
ディスコミュニケーションを生むひとつめのパターンが「素っ気ないメール」です。メールの場合、書き手に悪気がなくても、文字情報のみのやり取りとなるため、どうしても「素っ気ない」と受け取られやすくなります。とくに「そんなのはダメです」のように、言い切り型の言葉を使いがちな人や、敬意を示すのが苦手な人は注意しましょう。
【×】 ○○は、まだですか?
【○】 ○○は、いかがでしょうか。
【×】 それは無理です。
【○】 ご希望に添えず、私どもも大変残念です。
【×】 必ず○○しておいてください。
【○】 ○○していただけると助かります。
【×】 ○○を忘れてました。
【○】 大変失礼いたしました。○○を失念しておりました。
このように、少し配慮するだけでも、文面の印象が大きく変わります。
なお、「まだですか?」と比較した「いかがでしょうか。」にはクエスチョンマーク(「?」)が入っていません。「?」を使うと、相手を責めるような、少し冷たい印象の文面になりがちです。相手が“納期破りの常習犯”であるなど、 相手をキツく問いただす意図がないときは、できる限り「?」の使用を控えましょう。
パターン2:感情任せのメールで相手の怒りを買う
仕事をしていると、ついカッとなってしまうこともあります。しかし、相手との信頼関係を壊したくないのであれば、たとえカッとなったときでも、感情的なメールを書いてはいけません。冷静に事実を伝えることに注力しましょう。
【×】
>バナーのロゴが寂しい気がします。
>もう少し派手さを出していただけると助かります。
背景色が派手なので、ロゴを派手にしすぎると、見にくくなりますよ?
それに、打ち合わせのときに「シンプル系」でいく旨はお伝えしたはずです。
今さら覆されても困ります。
【○】
>バナーのロゴが寂しい気がします。
>もう少し派手さを出していただけると助かります。
ご意向に添えておらず、申し訳ございませんでした。
背景色とのメリハリを考えると、ほどよいバランスかと思いますが、
バナーの機能性を損ねない程度に、もう少し派手さを出してみます。
作り直しますので、16時までお時間いただけますか。
よろしくお願いいたします。
カッとなる気持ちはわかりますが、「×」の例文のように感情的なメールを送ってしまうと、相手との関係性が悪化する恐れがあります。人によっては「なんだ、この人の態度は。もう二度と頼まない」と思う人もいるかもしれません。
仕事のメールでは、よほどのことがない限りキレてはいけません。相手がお得意様(お客様やクライアント)であればなおのこと。もしも頭に血が上ったときは、すぐ返信するのではなく、頭が冷えるまで少し時間を置きましょう。
もちろん、「冷静に事実を伝えること」と「自分の意見を言わない」ことは似て非なるもの。完全服従型のやり取りもまたディスコミュニケーションです。社会人に求められるのは、自分の意見や主張、アイデア、助言などを、相手の気持ちを害さないよう、慎重かつ冷静に伝える能力です。
「メール=難しいコミュニケーションツール」という自覚をもとう
「○○さんて、ふだんはとても気さくでいい人なのに、メールになると、とたんに怖く(冷たく)感じられる」。そんな話をよく耳にします。多くの場合、そう思われてしまっている人に悪気はないのでしょう。メールでのやり取りが「非言語情報」を封じられた“難しいコミュニケーション”であることに気づいていないだけです(それが残念なことなのですが)。
逆にいえば、私たちがメールを書く側に立ったときには「非言語が使えない分、より慎重に言葉を紡ごう」という意識をもつ必要があります。素っ気ないメールや、感情任せのメールを書いて損をするのは、メールを書いた人自身であることを肝に銘じておきましょう。
もっとも、コミュニケーションは相手との関係性によって変化するものです。「とりあえず丁寧にしておけばいい」という考え方もまた危険です。コミュニケーション上手は仕事上手。とりわけメールは、現代ビジネスシーンにおいて重要なコミュニケーションツールです。
いつでも相手の立場や性格、現時点での自分との関係性などを意識しながら、その都度、最適な言葉や表現を選ぶようにしましょう。