効率化マニアの外資系コンサルが教える! 無駄な時間をゼロにする「時間の断捨離」最前線<第12回>
現役外資系コンサルとして膨大な仕事を最少の時間でこなしつつ、月間10万PVブログ「NAEの仕事効率化ノート」も運営するNAEさんに、ビジネスの現場で役に立つ時短術のコツを教わります。今回は「成果につながらない読書の無駄」について。
残念な本の読み方をしていませんか
「スキルアップしたい! よし、本で学ぶぞ!」
「上司に猛プッシュされた本、一応目を通しておくか」
「興味ないけど仕事に必要だし読まなきゃかな?」
など、さまざまな理由からビジネス関連の本を手に取る方は多いでしょう。しかし結局、半分も読み終えずに放置。 たとえ最後まで読んだとしても、頭に残ったのは「あとがき」に書かれたジョークだけ……。「何のためにこの本を読んだんだ」とがっかりしたこともあるはずです。
このように読書で得た知識が行動や成果につながらない、最大の原因は「ニーズの解像度が粗いから」です。 ここでいうニーズとは自分の知りたいことです。このニーズと本の内容がマッチするほど、本で得た知識は、その後の行動や成果につながりやすくなります。
そこでまず、本を読む前に「自分のニーズはなにか」を明確にしましょう。 そのために、本を読む前に自問すべき5つの質問を紹介します。
ここでは、私が以前、国家資格である「情報セキュリティスペシャリスト(現在の情報処理安全確保支援士の前身)」の資格本を読むと決めたときの思考プロセスを例に見ていきましょう。
1. 「なにを/誰をどうしたい?」
「次の仕事の相手である外国人CSO(最高セキュリティ責任者)の社内プレゼンスを上げ、クライアント企業のセキュリティ意識を高める足がかりとしたい」
このプロジェクトで私に求められた役割は、全社規模で行うセキュリティ改革の旗振り役です。具体的な活動範囲は、現状を理解し、あるべき姿を決め、改革方針を立てたうえでロードマップを描く。そして予算を確保し、初手の活動を立ち上げるまでです。
これまで売上に直接つながるわけではないセキュリティ改革を先送りにしてきたクライアント企業において私は、社長が外部から招へいしたCSOの右腕として振る舞うことが求められました。
しかし当の外国人SCOはセキュリティひとすじ30年。こちらは情報セキュリティ初心者。
「お前英語できるだろ」と任された、戦車に水鉄砲で挑むような無理難題。 普通に考えると、できるはずがない、逃げ出したいと思うところです。
コンサルティングファームでは、コンサルタントに案件を選ぶ裁量があるので、「無理だ」「ほかにセキュリティに詳しい人間がいるだろう」と断ることもできました。
しかし、私は挑むことに決めました。
2. 「なぜそう思った?」
「望まれた以上の成果を出し、自分に対する上司の評価を上げたい」
当時、私はどちらかというと花形ではない役割をよく任されていました。大きな案件を次々と担当している年次の近いコンサルタントに比べて、小さな役割をこなす単発系の仕事を与えられることが多かったのです。
クライアントの売上に直接貢献できる案件が重視されていた当時、そうした施策に関する案件はスター人材が担当し、そうでない案件は適当な人間に回す……これが当たり前だったのです。
そのような状況で、私に回ってきたのが先ほどのセキュリティ改革案件でした。直接売上に貢献する案件を担当したいと思っていた私にとっては喜べる内容ではありませんでした。ストレートに言えば、この現状にいる自分を腹立たしく、またふがいなく感じました。
しかし、そこは発想を転換し、この案件で期待以上の成果を出そうと考えたのです。
3. 「いつまでに?」
「プロジェクトが終わる半年後まで」
コンサルタントは期限つきの傭兵。プロジェクトが終わり、後続の取組がなければ去るのみ。そしてセキュリティ関連のプロジェクトは、リスクを扱うという性質上、投資対効果の算出根拠が貧弱になりがちです。そのため取組を継続案件化するための予算がつきにくいのです。
だからこそ「半年」というプロジェクト期限が、今回の仕事において私が上司に期待を上回る成果を提示するための時間だったのです。
4. 「今、やるべきことは?」
「CSOと議論するに足るセキュリティの知識を、最短で身につけること」
コンサルタントの与える価値は「知識・技能・時間」です。セキュリティでもそれは同じ。しかし相手はセキュリティ30年のベテラン。知識や技能では貢献できないことは明らかでした。
そのため私は「時間の面での貢献」に全力を注ぐことにしました。具体的にはまわりの関係者を巻き込み、阻害要因を排除し、スピード感を失わずに検討を進めることが貢献になるだろうと思ったのです。
とくに今回はプロジェクトの責任者が外国人CSOであったため、日本の役員レベルとのコミュニケーションに苦労するはずだと踏みました。 しかし、コミュニケーションといいつつも単なる通訳や調整なら単価の高いコンサルタントを雇う必要はありません。
だからこそ、CSOの意図を明確に理解し、議論を深めたうえで、いかに他の役員たちを動かすかを考える。セキュリティ知識とコミュニケーションの両輪で支援する。そうでないと価値がありません。
したがって私は、CSOとセキュリティ全社改革の話ができる最低限の知識を、最短で頭に叩き込む必要があったのです。
そこで手にとったのが、IPA(情報処理推進機構)の主催する国家資格「情報セキュリティスペシャリスト」の教科書でした。
この資格は、IPAの資格群では「高度」と位置づけられているもの。教科書には、セキュリティに関する幅広い知識が体系的に整理されていました。これは「深く狭く」ではなく「広く浅く」にあたるため、CSOの視点で全体を俯瞰しつつ議論に足る知識をつけるには適切だろうと考えたのです。
5. 「その本をどう使う? どう動く?」
「セキュリティ知識を身につけた証左として、情報セキュリティスペシャリスト試験に合格するために使う」
折しもその日は、情報セキュリティスペシャリストの試験日まで2ヶ月、申込み期限は1週間後というタイミングでした。
「どうせ学ぶなら資格も取ってしまえ」と、本を買ったその場でスマホでサイトにアクセスし、申し込み、受験料を振り込みました。
そして帰りのカフェで試験当日までの勉強プランを作成、教科書の章立てを各週レベルで当て込み、平日・休日それぞれどのくらい勉強時間を取るかを決めるなどしました(詳細は、私のブログの記事「ガチで実務に活かしたい人向け、情報セキュリティスペシャリストの勉強方法」で紹介しています)。
「自分の中のニーズ」を言語化して解像度を上げよ
そもそも本を読むのは、自分のなりたい姿に進化するため。仕事のために本を読んでも成果につながらないなら、それは本のせいではありません。自分が弱いせいでも、仕事に興味を持てないからでもありません。
そもそも自分の「ニーズ」を言語化して解像度を上げられていないからです。
まずは自分と向き合って、ドロドロと生々しい自分の本音や内なる思いを見つめ直し、「自分のなりたい姿」がどのようなものか言語化しましょう。そして言語化した「なりたい姿」とそのために必要な知識と行動はなにか、考え抜きましょう。
そこを糸口に関連する本をむさぼり読みましょう。 そうすればその本はきっと、あなたの血肉となるはずです。 自分にとっての本の価値=成果は、本を読む前に決まるのです。
以上、「成果につながらない読書の断捨離」というテーマで最前線からお伝えしました。