効率化マニアの外資系コンサルが教える! 無駄な時間をゼロにする「時間の断捨離」最前線<第9回>
現役外資系コンサルとして膨大な仕事を最少の時間でこなしつつ、月間10万PVブログ「NAEの仕事効率化ノート」も運営するNAEさんに、ビジネスの現場で役に立つ時短術のコツを教わります。今回は相手を動かす「勝つ資料」の作成に大切なことについて。
なぜ、その資料では「勝てない」のか?
せっかく1週間かけてパワポ資料を作り込んだのに、結局なにも決められずに来週の会議まで結論は先延ばしにされ、1週間のロスが確定。このようなムダ、あなたも経験があるのではないでしょうか。
私も何度も同じ経験をしてきました。たとえばクライアントが業務で利用するクラウドサービスの選定支援をおこなったときのこと(ITシステムは近年、自社の業務システムをクラウドサービスに置き換えるという流れが加速し、こうした案件がよくあります)。
「A、B、CのうちBが優れています」と比較表とともに提案しても、「コストが気になる」「うちの人間のITリテラシーでも使えるのか」「情報セキュリティの監査がねえ」など、さまざまな理由で何度も突き返されました。
リベンジを繰り返し、ミスチルの「HANABI」よろしく「もう一回 もう一回」とつぶやきながら、歯を食いしばって食らいつきました。これはこれで根性論としては美しいかもしれませんが、仕事としてはまったく美しくありません。
今あらためて振り返ると、「決めきる=意思決定をしてもらう」ために最低限必要なポイントが、当時の私の資料には足りなかったのだと痛いほどわかります。あんな資料を作っても通るはずないよな……と。
いうなれば最初から負け戦の「勝てない資料」だったのです。というわけで今回は、「決められない資料に足りない3つのポイント」を紹介します。
相手を動かせない資料に足りないものは……
「なぜ今決めるべきか?」の決断を迫るストーリー
1つ目は、「今、決めれば大きなメリットがある」ことを相手に実感させる「ストーリー」です。
たとえば、先ほどのクラウドサービスの選定を例に取ります。老朽化した自社の業務システムをクラウドサービスに置き換えたい、と思っているクライアントに対し、最適なクラウドサービスを提案しなければなりません。
この場合のストーリーは、たとえば
- 刷新対象の御社現行システムは、2019年3月に保守契約期限を迎えます
- 保守契約費用は1年で約1億円。契約期限までに刷新が完了しなければ、IT投資に回せたはずの1億円が運用保守費に消えます
- それを避けるには、この会議でどのクラウドサービスを選ぶか、方向性だけでも決めなければなりません
というようなイメージです。つまり、ストーリーとは「Why Now?(なぜ、今か)」を語るものです。
こういったストーリーがないと、相手は「なんで今決めないといけないの?」という疑問を持ちます。なかには、「そもそも、なぜ変えないといけないのか? 今のシステムでいいじゃん。売上をあげたいだけなんじゃないの」という疑念をいだく人もいるかもしれません。こうした疑問や疑念に対して先手を打たない限り、相手は「先送りモード」に入ります。
にもかかわらず、多くの「勝てない資料」にはストーリーがありません。ストーリーをすっとばして、唐突に「今日はあなたに○○を決めてほしいと思っています」と突きつけているのです。これでは決まるはずがありません。
ただし、だからといってストーリーを捏造するのはNGです。加えて、決断しやすいストーリーは相手によって異なります。
したがって、ストーリーは相手を取り巻く状況、相手の持っている課題、意思決定のプロセスなどを、事前にリサーチして組み立てなければなりません。そのうえで、「決めるべきは今」という根拠をもとに語りましょう。
「最終的にどうするべきか」が伝わる明確なメッセージ
2つ目は、「だからあなたはこうすべき」をバシッと伝える「メッセージ」です。
成果につながらない資料は、多くの場合そもそも結論がない、もしくはあいまいです。たとえばあなたが「とりあえずスライドは書いたけど、メッセージライン(タイトル下に書かれる、そのスライドの結論を示す短文)になんて書くか悩んでいまして……」と上司に相談しているとすると、それは赤信号です。
メッセージとは、最終的に「相手にどうしてほしいか」を伝える結論のこと。これが決まっていない、もしくはあいまいだと、当然相手になにも伝わらず、決断につながりません。メッセージが明確であることは、相手に決断させる前提条件といえます。
クラウドサービス選定を例にすると、
「○○の理由から、御社との適合度が高いクラウドサービスBを選ぶべきです」
と明確に言い切ります。
パワポ資料では「1スライド1メッセージ」と言われています。複数の話を1スライドに盛り込む「1スライドnメッセージ(複数のメッセージ)」は言いたいことが伝わりにくいため、1スライドに書く結論は1つに絞る……というもの。資料のメッセージを明解にするためのベストプラクティスです。
これは結論がそもそも書かれていない「1スライド0メッセージ」を避けるチェックにも使えます。資料を作る際は必ず、「このスライドの結論は?」と自問しましょう。
「なんで?」に答える、結論を支えるロジック
3つ目のポイントが、「ロジック」です。
ここでいうロジックとは、「あなたは◯◯すべき」というメッセージに対し「なんで?」と聞いてくる相手に、理由を示すためのものです。そもそも理由もなしに「決めろ」というのは横暴が過ぎます。相手としては、自分が決めたことについて上司や関係者に説明責任を果たさなければならないので、理由は必ず確認されます。理由=「結論を導くロジック」は決めるために必須、ということです。
再びクラウドサービスの選定の例で言えば、「なんでBなの?」という疑問に対する理由は、
- Aサービスは、業務要件や技術面では適合度が最高だが、コストが予算の1.5倍かかる
- Cサービスは、コストは安く業務要件充足度も高いものの、技術適合の面で導入にリスクがある
- Bサービスは、コストは予算上限を10%ほど超えるものの、主要な業務要件と技術適合面はクリアしている
- コストとリスクのバランスを考えると、Bサービスが良いのではないか
というようなもの。
ロジックの立て方にはいろいろなパターンがありますが、基本をおさえるなら「ロジカルシンキング」を学ぶとよいでしょう。結論と理由を関連させ問題解決をする「So What/Why」や、理由の抜け漏れを検証する「MECE」など、ロジックが破綻しないようチェックする考え方がそろっています(詳しくは『外資系コンサルは「無理難題」をこう解決します。』の第1章でも解説しています)。
「ストーリー」「メッセージ」「ロジック」が資料の必要条件だ
資料で相手を動かすためには少なくとも、「なぜ今決めるのか」「私はどうすべきか」「その根拠はなにか」の3つの疑問に答えなければなりません。
そのため資料には、要素として「ストーリー」「メッセージ」「ロジック」の3点セットが含まれている必要があります。
ただし、この3点セットがそろっていることは、あくまで必要条件。「戦う前から負け戦」という最悪の事態を避けるためのものです。これを守れば100戦100勝という十分条件ではありません。
お粗末なストーリーでは相手は決める気になってくれません。メッセージがシャープでも、的外れなら無意味です。ロジックが破綻していれば、相手は納得しないでしょう。
とはいえ、世の中の大半の「負け資料」の多くは「戦う前から負け戦」レベルのものであるように思います。そのため、負けるべくして負ける可能性を減らすだけでも、勝率をグッと底上げできるはずです。
ぜひ次回資料を作るときは「ストーリーはあるか」「メッセージは明確か」「ロジックは通っているか」を意識してみてください。きっと今まで見えなかった改善点が見つかるはずです。
以上「勝てない資料の断捨離」というテーマで最前線からお送りしました。