一生モノのスキルになる! 『文章を書く』ことの苦手を好きにかえる方法<連載第6回>
伝える力【話す・書く】研究所を主宰し、「文章の書き方」に関する著書も多い山口拓朗さんに書き方のコツを教わります。今回は文章の完成度を決める「見直しと修正作業」のポイントについて。
「情熱で書いて、冷静で直す」ことで、文章の完成度は高まる!
世の中には自分が書き終えた文章をまったく読み返さない人もいるようです。このような書き方をしている人は、いつまで経っても文章力が上達しません。
「文章作成」とは「書く作業」だけを指しているわけではありません。書いた文章を読み返したうえで、伝わる文章になるよう修正していく。その作業をも含んでいます。
筆者が提唱する文章作成法のひとつが「情熱で書いて、冷静で直す」です。
文章を書くときには、「伝えたい」という情熱が必要です。その情熱は、文面に如実に表れます。とくに、読む人の行動を促したいときや、読む人の心を動かしたいときは、情熱が不可欠です。文面の熱量が高ければ高いほど、読む人の心に刺さる文章になりやすくなります。
一方で、情熱だけでも伝わらないのが、文章作成の難しいところです。夜中に一気呵成に書き上げたラブレターを翌朝に読み返したときに「なんて暑苦しくて冗長な文章なんだ……」と愕然としたり、「こんなことまで書いて恥ずかしすぎる……」と赤面したりした経験のある方もいるでしょう。
ここで必要となるのが、「冷静で直す」プロセスです。「ほてり(行き過ぎた熱)」を取り除くことによって、ほどよい熱量の文章ができ上がるのです。
書き手から読み手に切り替え、文章をチェックする
文章を読み返すときには、頭を「書き手→読み手」へと切り替えます。書き手としての“我(エゴ)”は捨てて、徹底的に読む人の立場に立つ必要があります。「読む人が知りたいことが書かれているか?」「読む人にとってわかりやすい文章になっているか?」「難しい言葉を使っていないか?」「言葉足らずになっていないか?」「冗長すぎないか?」……等々、自分が書いた文章を客観的にチェックしていきます。
【読み返しの効果を高めるポイント】
1. 時間を置く
→時間を置けば置くほど、文章を客観視しやすくなります。置く時間は、10分よりも1時間、1時間よりも半日、半日よりも1日のほうが、頭の切り替えがしやすくなります。
2. 印刷する
→印刷(プリントアウト)して活字になると、まるで他人が書いた文章かのように、新鮮な気持ちで読み返すことができます。
3. 音読する
→黙読の場合、“読み流してしまう”というリスクがあります。一方、音読の場合は“読み流す”ことができません。その結果、文章の“不備”や“至らなさ”に気づきやすくなります。
4. 他人に読んでもらう
→最強の読み返し方法です。他人から「ここがわかりにくい」「これはどういう意味?」など忌憚のないフィードバックをもらうことで、文章の質が高まります。
一手間で「読みやすさ」や「理解のしやすさ」は格段に変わる
では、「情熱で書いて、冷静で直す」を実践した文章を見ていきましょう。
【原文】
今回のイベントのコンセプトである「高齢化社会×エンターテインメント」というコンセプトが抜群に素敵ですばらしかったです。一方で、大まかな演出にエッジの効いた鋭さが見られませんでした。「企画倒れ」とでも言いましょうか。コンセプトがよくても演出がもう一歩足りませんでした。基本的に次回に期待することにします。
【修正文】
今回のイベントは、「高齢化社会×エンターテインメント」というコンセプトが抜群にすばらしかったです。一方で、演出に鋭さが見られませんでした。次回の改善に期待します。
原文は情熱だけで書いた冗長な文章で、修正文は冷静で直した簡潔な文章です。「読みやすさ」や「理解のしやすさ」の差は一目瞭然ではないでしょうか。
原文の一文目には「コンセプト」という言葉が二度出てきます。まどろっこしいので、どちらか一方を削ります。同様に、「抜群に素敵ですばらしかったです」もくどい印象を受けます。「抜群に素敵でした」か「抜群にすばらしかったです」で十分です。場合によっては「抜群に」も削って、よりシンプルに「素敵でした」や「すばらしかったです」としてもいいでしょう。
ほかにも「大まかな演出に」の「大まかな」が何を指すのかが不明であり、読む人を混乱させるので削ります。「エッジの効いた鋭さ」もくどい表現です。「鋭い=エッジが効いている」の意味ですので、「エッジの効いた」は削りました。あるいは、「鋭い」を削って「演出にエッジが効いていませんでした」としてもいいでしょう。
さらに、「『企画倒れ』とでもいいましょうか」のフレーズは、明らかに言葉の選定ミスです(コンセプトを含め、企画自体は悪くないはずです)。また、「コンセプトがよくても演出がもう一歩足りませんでした」は、それまで述べてきた内容の言い直しにすぎません。あえて書かなくてもいいでしょう。
最後の一文の「基本的に次回の」の「基本的に」も意味不明です。「期待することにします」は「期待します」で十分に通じます。これらのムダを思い切って削った修正文であれば、くどさや冗長さは感じられません。
中途半端な文章の書きっぱなしはやめよう
なお、「情熱で書く」ときには文量を多めに書き(1.3倍〜1.5倍)、「冷静で直す」ときには文量を1/3〜1/4ほど削る方法をおすすめします。そうすることで、文章の読みやすさと理解度がアップします。
たとえば、A4×1枚が完成形だとしたら、まずは、情報の漏れがないよう、熱量をかけて“一気に”かつ“多め(A4×1枚半)に”文章を書きます。その後、頭を「情熱→冷静」に切り替えて読み返し、文章のムダを削りながらA4×1枚に絞り込んでいくイメージです。情報密度の高い文章を作るうえで有効な方法です。
どのような点に注意して文章を直していけばいいのか、おさらいを兼ねて、以下に5つのポイントをご紹介します。
1. 「本筋と無関係な情報」を削る
→余談として機能しているならまだしも、余談になっておらず、なおかつ、本筋と無関係な文章(エピソード)は削ります。
2. 「同一表現や同一内容のくり返し」を削る
→強調目的でくり返すのでなければ、削ったほうがすっきりします。
3. 「過剰な副詞&形容詞」を削る
→過剰な副詞や形容詞は、くどくどしく感じられます。使いがちな「とても」「非常に」「すごく」「かなり」「本当に」なども、削ったほうが読みやすくなるケースが少なくありません。
4. 「くどい言葉」を削る
→不用意に使いがちな「〜という」「〜ということ(もの)」などの言い回しも、読む人にくどい印象を与えます。
5. 「意味のない言葉」を削る
→“意味がありそうで実は意味のない言葉”は削る対象です。ただ「おいしい」と書けば伝わるケースで、「ある意味おいしい」と書くのは奇妙です。要約する気もないのに「要するに」を書くのも奇妙です。クセでつい使ってしまう言葉ある人は、その言葉が本当に必要か、よくチェックしましょう。
あなたは文章を書きっぱなしにしていませんか? 「冷静で直す作業」に注力するだけで、文章のクオリティは格段にアップするはずです。ぜひ意識して実践してみてください。