一生モノのスキルになる! 『文章を書く』ことの苦手を好きにかえる方法<連載第4回>
伝える力【話す・書く】研究所を主宰し、「文章の書き方」に関する著書も多い山口拓朗さんに書き方のコツを教わります。今回は「自己重要感」と「ベネフィット」のふたつの工夫で、「相手からイエスを引き出す文章」を書く方法について。
文章のゴールは、読む人から「イエス」をもらうこと
私たちが仕事で書く文章には、何かしらの目的があります。その目的を達成しやすくするためには、読む人が、(書き手の望み通りに)行動したくなる“言葉がけ”をする必要があります。
一例を挙げましょう。あなたが、同僚から仕事の手伝いを頼まれたとします。以下のメール1と2のどちらの依頼文に「イエス」と返事したくなりますか?
【メール1】
渡辺さん、すみません、○○プロジェクトの進行でテンパってしまいました。少し仕事を手伝ってもらえませんか?
【メール2】
渡辺さん、恥ずかしながら、○○プロジェクトの進行がうまくいっていません。つきましては、プロジェクトの経験が豊富な渡辺さんのお力を拝借したく、ご連絡差し上げました。お忙しいところ申し訳ございませんが、一度相談に乗ってもらえませんでしょうか。
あなたが渡辺さんだった場合、「イエス」の返信をしたくなるのはメール2ではないでしょうか。メール1は<忙しくて手が回らないから、何でもいいから(誰でもいいから)手伝ってくれ>と言わんばかりの書き方です。人を単なる“頭数”としか考えていないような印象を受けます。言葉遣いにも敬意が感じられず、謙虚な姿勢もうかがえません。
一方、メール2の場合、自分(=渡辺さん)のことを必要としている気持ちが伝わってきます。また、「プロジェクトの経験が豊富な〜」の文面は、言われて悪い気がするものではありません。<自分のことを高く評価してくれていることだし、必要としてくれているなら一肌脱いでもいいか>という気持ちになるのではないでしょうか。言葉遣いも丁寧ですし、謙虚な姿勢も文面ににじみ出ています。
このように、同じ“お願い事”でも、言い方を工夫するのとしないのとでは、相手に与える印象はもちろん、得られる結果にも大きな差が生じます。つまり、書き方の差は、そのまま仕事の成果の差に置き換えられるのです。
自己重要感=相手の価値を認めていることを伝える
特筆すべきは、メール2に読む人の「自己重要感」を高めるフレーズが盛り込まれている点にあります。「自己重要感」とは、平たくいえば「自分は価値ある存在である」と感じる気持ちのこと。心理学の見地からも、相手の自己重要感を満たしてあげることが、円滑なコミュニケーションを図るうえで有効とされています。
逆に、「相手に軽く見られている」「相手にあまり評価されていない」と感じたとき(=「自己重要感」を満たしてもらえないとき)、人はその相手に対して「否定」「反抗」「無視」などの行為を取りがちです。それが依頼を受ける場面であれば、快諾はおろか、何かしらの理由をつけて断ろうと考える人もいるはずです。
こと仕事のシチュエーションで、相手の気分を損ねて得することなど何もありません。とくにお願い(依頼)をする文章を書くときには、何はともあれ、相手の気分を損ねない書き方をしなければいけません。それどころか、相手の気分をできる限りよくして、快く「イエス」の返事をもらうことが、書き手に課せられたノルマではないでしょうか。
「ベネフィット」がなければ、興味をもたれない
さて、「自己重要感」と同様に、文章を書くときに意識しておきたいキーワードが「ベネフィット」です。ベネフィットとはマーケティング用語で「あるお客さんが、その商品(サービス)から得られる恩恵や利益のこと」を指します。ここでは、対象を消費者に限定せず、もう少し広義に「文章を読む人が得られる恩恵や利益」と考えて話を進めます。
たとえば、あなたがお客様に営業レターを書くとします。あなたがお客様だった場合、以下の1〜3のどのレターに興味をもちますか。
【レター1】
このシステムは弊社が全幅の信頼を寄せるA社と共同開発したものです。その操作性と機能性、そして、得られる効果には絶対の自信をもっています。
【レター2】
このシステムを導入することによって、社員一人あたりの月の残業時間を平均で15時間短縮することができます。その結果、一営業所で年間約1,200万円のコストカットが実現できるでしょう。
【レター3】
開発期間に5年を費やしたこのシステムが、今後、業界のスタンダードになることは間違いありません。いち早く導入することをおすすめします。
おそらく興味をもつのはレター2ではないでしょうか。「社員一人あたりの月の残業時間を平均15時間短縮」「一営業所で年間約1,200万円のコストカット」という具体的なベネフィットが盛り込まれているからです。
一方、レター1と3は、お客様の興味や関心を引くベネフィットが書かれていません。書かれていることは自慢話の類や、お客様が興味や関心をもちそうにない情報ばかりです。
・弊社が全幅の信頼を寄せるA社と共同開発したものです
→【読む人の気持ち】それが何か? A社って……よく知らないし。
・その操作性と機能性、そして、得られる効果には絶対の自信をもっています
→【読む人の気持ち】操作性や機能性ってどんな? 得られる効果って何? そこが知りたいんだけど……。
・開発期間に5年を費やしたこのシステムが、今後、業界のスタンダードになることは間違いありません
→【読む人の気持ち】ふーん、だから何か?
・いち早く導入することをおすすめします
→【読む人の気持ち】そう言われても、導入するメリットがよくわからないんですけど……。
レター1や3のように「自慢話」や「余計な背景説明」「読む人に無関係な話」「読む人の興味・関心からずれた話」ばかりの文章では、人の心を動かすことはできません。読む人は「自分(自社)にとってどんないいことがあるか?」ということにしか興味・関心がないからです。
これは、営業レターに限った話ではありません。とくに企画書や提案書、販促・集客目的の文章など“達成したい目的が明確な文章”では、読む人が得られる恩恵や利益、つまり、ベネフィットを盛り込む必要があります。そのベネフィットが魅力的であればあるほど、読む人が「採用したい」「欲しい」「買いたい」と思う確率が高まります。
「自己重要感」と「ベネフィット」の二大ウェポンを意識しよう
「自己重要感」と「ベネフィット」。このふたつは、読む人の心を動かす際の二大ウェポン(武器)です。このふたつを意識して文章を書けるようになると、読む人が興味・関心をもつ確率が飛躍的に高まり、仕事の成果につながりやすくなります。
少なくとも<書きたいことを書いている>だけでは、読む人の心を動かすことはできません。(書き手の望み通りに)読む人に動いてもらいたければ、「自己重要感を満たす“言葉がけ”」と「相手が喜ぶベネフィット」を意識して盛り込みましょう。