「英語の本質は、実は単純な形でできています」

『世界に1つだけの英語教科書』(西巻尚樹:著)の冒頭にはこう書かれています。「英語は1文型しかない」さらには「英文には未来形はない」など、私たちが学校教育で習い、わかったつもりになっていた英語の常識に一石を投じた本書。

長年に渡る英語学習指導の中で現行の英文法の不備や論理的矛盾に気づき、20年に及ぶ研究の末、日本人のための英語学習理論を考案した著者の考えとはどのようなものなのでしょうか。

英語で重要なのは「判断語」

「主語+動詞+目的語+修飾語」の、いわゆる「5文型英語(SVOC)」の理論が英語の基礎として広く知られています。

しかし、このSVOCを注意深く見ると、あることに気づきます。それは「主語」「目的語」「修飾語」の部分は「言葉の働き」を意味していますが、なぜか「動詞」の箇所だけが、「品詞名」を使っているということです。

西巻先生によると、この、主語のすぐ後ろの言葉を「動詞」と説明したことに矛盾があり、これが日本人の英語の理解を複雑にしてしまった原因なのだとか。

I want to get a rest at a hot-spring resort.

上の例文を従来の英文法で説明すると、“want”が動詞、“to get”は目的語ということになります。

さらに、言葉の並び順に訳してみます。

私が、欲しがっているのは、とること、休暇を、温泉で、です。

すると、主語「私が」の後ろにあるのは「欲しがっているのは、とること(want to get)」という言葉のまとまりで、「……をとりたい」という話し手の気持ちや判断を表しています。そこで、この部分を「判断語:Verdict」と考えると、英語の理解が非常にスムーズになるのだそうです。

こうした考えから著者が導き出したのが、

 {S-V-O}-P
→Subject(主語) Verdict(判断語) Object(対象語) Predicate(叙述語)

という、一つだけの英語の基本形です。英語はこの4つの要素のつながりに、それぞれの働きをする言葉をあてはめるだけのとてもシンプルな構造の言語だと西巻さんは本書の中で述べています。このVSOP(Very Simple One Pattern)英文法が、日本人がラクに、正しく、英語を理解するための英語の基礎となるのです。

「will」が表しているのは不確かな未来ではない

きっと、初めてwillを学校で習ったとき、「~でしょう」という未来を表すと習ったはずです。そのため、なんとなく不確かな予定などを伝えるときにwillを使っている人が多いようです。

しかし西巻先生によると、動詞の前に置くwill, さらにcan, mayは、話し手の「……だと思う」という「思い」を表しているとのこと。これらの言葉は「どのくらいの割合で起こる、起きて欲しいと思っているか」という、話し手の「起き方の程度に対する判断の違い」を表しています。

will, can, mayは「助動詞」と呼ばれていますが、VSOP式に考えると主語の後、判断語の場所に置かれるので「話し手の気持ちや判断を表す言葉:判断詞」となります。

たとえば、映画『ターミネーター』の名台詞「I will be back.」。このセリフには「また戻ってくるでしょう」という不確定な未来ではなく、「必ず戻ってくる」という力強い意思が込められているのです。

その話し手の気持ちを数値で表すと、以下のような基準になります。

will:確実にする/なると思う。(実現確率100%)
can:高い確率でできると思う。(実現確率95~80%)
may:する/なるかもしれないと思う。(実現確率60~51%)

こうしてみると、私たちが学校で習った「willは未来形で、意思や推量を表す。canは能力・可能性を表す。mayは許可・推量を表す」とは、だいぶ違うニュアンスをもっていることがわかるはずです。「話し手の気持ち(判断)」を表していることが、will, can, mayを理解するきかっけとなるでしょう。

未来形のはずのwill に過去形があるのはおかしい

さらにwill が「未来形」だとしたら、おかしなことがもう1つあります。それは「will, can, may」にはそれぞれ、「would, could, might」のように過去形があることです。

このwouldを使った表現に、I would like to do…があります。この表現は、I want to do…と同じ意味を、丁寧にへりくだって言う慣用表現だとされており、少し詳しい文法書には「このようなwouldの使い方は仮定法の過去」であると書かれています。

では仮定法過去とは何かというと、「だったら気分」を表しているというのが西巻先生の考えです。

would:確実にそうなったらいいのにと思う
could:高い確率でできたらいいのにと思う
might:半々くらいの確率でなったらいいのにと思う

つまり、I would like to do…の言い方は、「できることだったらしたいのですが」というへりくだった意味になります。ただし、その中には「絶対したい」という強い希望が含まれます。なぜなら、willに「確実にそうなると思う」という意味があるからです。

このことを知ったうえで、下のような文章をみると、書き手の「会社から逃げたい」という思いがより伝わってくるのではないでしょうか。

If I were a bird, I could fly away out of the window.
※この場合、「会社」の意味でcompanyではなくwindowを使っています。

もし、私が鳥であったら、私ができと思えるのは飛んで逃げること、窓(会社)から外へ。
→もし、鳥だったら、会社から飛んで逃げられのに。

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『世界に1つだけの英語教科書』には、「A is Bは、A=Bではない」「toの意味は1つしかない」など、頭の中を整理して、新たに英語を習得するための気づきが満載です。「学校で習った英語がいまいちしっくりこない……」「英語の基礎がわからなくてトラウマに」という方にとって、目からウロコの1冊になるはずです。