「部下が指示通り動いてくれない」「声をかけても反応が薄い」「そもそもどう声をかけていいのかわからない」。働く人の価値観が多様化する現在、多くの上司やリーダーが、部下と適切なコミュニケーションが取れず、結果的に成果があがらないことに悩んでいます。

そんな悩みを解消するのに効果的な話法として、相手の心に火をつけ、能力を存分に発揮させる「ペップトーク」があります。どのような話法なのか、具体的に見てみましょう。


上司はそれに気づいていない

コンサルタントとして企業のマネジメント研修を数多く行い、『部下のやる気を引き出すワンフレーズの言葉がけ』の著書もある占部正尚さんは、部下とのコミュニケーションに悩む多くの上司たちから相談を受けます。その一方で、部下の立場の人たちにもよく話を聞くそうです。

そんなとき彼らは、上司の言うことを素直に聞けない理由として「やる気が失せる言葉を上司からかけられる」ことをあげる場合が多いのだとか。

たとえば、ある営業チームのリーダーは「どうも部下から信用されていない気がする」と悩んでいました。占部さんは彼に、いつもどのような言葉を発しているかを思い出させ書き出していきました。すると、発言にある傾向が見えてきました。

彼は、部下が意気揚々と営業に出かけるとき、

「事故るなよ」「この間みたいな失敗をするなよ」

というような否定形で言葉をかけることが多かったのです。もちろん悪気があるわけではなく「気をつけて」「今度は成約するといいね」という気持ちを込めているのですが、否定形で表現しているために部下たちに悪いイメージを思い起こさせてしまっていたのです。

問題は、この例のように多くの上司が「自分が部下のやる気を損なうような言葉を発していることに気づいていない」ことです。

人は言葉によって動きます。部下のやる気を引き出すのもつぶすのも上司の言葉が原因だとしたら、自分の発言の傾向を振り返ってみるべきでしょう。そのうえで、部下がイキイキと働きはじめるような言葉がけを意識する──そのときに有効なのが「ペップトーク」なのです。

相手の心に響く「言葉がけ」とは

ペップトークはアメリカのスポーツ界で生まれました。代表例としてよく引き合いに出されるのが、米映画『エニイ・ギブン・サンデー』の名シーン。アメリカンフットボールの大一番、直前のロッカールームで、アル・パチーノが演じるコーチが、選手たちを鼓舞するスピーチがそれです。

このシーンを見た人は、4分ほどのスピーチの長さと、見る者すべての心をつかんで離さない名演に「ハードル高い!」と感じるかもしれません。しかし、アル・パチーノのような名優、名コーチでなくても、部下にやる気を出してもらうためにペップトークを使うことはできます。それもスピーチではなく、たったワンフレーズの言葉がけによって。

占部さんによればそのコツ、ポイントは4つです。

1.事実の受け入れ
2.とらえかた変換(ポジティブな発想転換)
3.してほしい変換(肯定形での言葉がけ)
4.背中のひと押し
(日本ペップトーク普及協会によるまとめ)

それぞれについて、占部さんの著書『部下のやる気を引き出すワンフレーズの言葉がけ』の「序章 相手の心に響くペップトークとは」から、フレーズの事例をあげながら見ていきましょう。