いかなるときもおごらず飾らず、自然体でシンプルに生きている人がいます。
とくにすごいのは勝負事に際しても平常心を保ち、自然体でいられる人です。緊張もプレッシャーも関係ないと言わんばかりに最大限の実力を発揮する人は、こちらからすれば「一体、その心の強さはなに?」と思ってしまいます。可能なら今からでもこういう人になりたいものですが、一体どうすればいいのでしょうか。
『「自然体」がいちばん強い』を上梓した桜井章一さんは、麻雀の裏プロ(代打ち)として信じられないほどのプレッシャーの中、20年間無敗を守り続けた伝説の雀士。圧倒的な強さから“雀鬼(じゃんき)”と呼ばれ、現在は若手の育成・指導を行なっています。そんな勝負の全てを知り尽くし、勝ち抜いてきた桜井さんが大切にしていたものこそが「自然体」です。
一味違う、勝負師の「自然体」
「自然体」と聞くと、「肩の力を抜いて生きる」」「落ち着いていて何事にも動じない」などとイメージする人は多いでしょう。ですが、桜井さんの定義は少し違います。
桜井さんにとっての「自然体」は、自然との一体化です。風にそよぐ木々、水の上を静かに広がる波紋、流れてゆく雲……。こうした自然の現象をそのまま体現できていることが「自然体」だとしています。
だからこそ、落ち着いている大人よりも、落ち着くことなく常に動いている子どもの方が、自然体に近いといえます。自然体には「動と静」でいえば「静」のイメージがありますが、桜井さんはこんなことをつづっています。
絶え間なく動くという生命の本質を考えれば、落ち着いて何かに長時間集中するのは、本能から離れた行為でもあるのだ。(32ページより)
確かに風も、水も、常に動き続けています。一方で、私たちは「揺れない心」を理想として求めてしまいます。
大切なのは「揺れないこと」ではなく、「いい揺れ方をすること」。そのヒントは川のせせらぎや、穏やかな波の音にあります。自然の中からゆったりした揺れ方を学ぶことは、「自然体」で生きるためのヒントになるはずです。
自然体になりたいならば、自分に正直になる
とはいえ、激しく揺れ動いているのが現代。スピードがモノを言う過当な競争の中で、自然体を作ることはできるのでしょうか? 本書からその方法を3つご紹介しましょう。
(1)「向上心」ではなく、「向下心」を持て
桜井さんは私たちが持つ「向上心」に対して懐疑的な見方をします。
「成功すること、出世することが素晴らしい」といった、世の価値観に沿った強い向上心が激しい競争を生み出し、結果多くの人が心を疲れさせている、そう言うのです。
むしろ、人間は「向下心」を持つべき。これは堕落するという意味ではなく、足下にある自然の大地、自分の内面に心を向かわせるということです。自分の価値観を他者に委ねる生き方よりも、自分自身の価値観を大事にする生き方の方が自然体に近いというのはまちがいありません。