通常、中学や高校では物理・化学・生物・地学の中から1~2科目を選択して学びます。そのなかで、子どもから大人まで一番なじみのあるものと言えば「地学(地球科学)」ではないでしょうか。
たしかに「受験科目としての理科」という観点では他の3つよりマイナーな科目とされています。しかし、地学が扱う内容は私たちの生活基盤に密接な関連があります。全国の博物館などで「自然災害と防災」「化石の分類」「海流と気象」といった、さまざまな展示・イベントが開催されているのもその表れでしょう。
そこで、短期集中連載として、『本当にわかる地球科学』の共著者であり、名古屋市科学館主任学芸員の西本昌司さんに地球科学の面白さについて語っていただきました。第1回は「感動ポイントのズレが生む、地球科学の面白さ」について。「ブラタモリ的視点」で旅はおもしろくなる
NHKで放送されている「ブラタモリ」を見ている方も多いのではないでしょうか。タモリさんが全国の街をぶらぶら歩きながら、普通の人があまり気に留めないような風景を楽しむ番組です。
タモリさんの感動ポイントがズレていることが面白がられているのかもしれませんが、実は、地球科学が好きな人にとっては共感ポイントだらけの番組なのです。というのも、タモリさんが面白がっている坂や段差、崖の石などは地球科学の研究対象にもなっているからです。
そういう意味では、「ブラタモリ」は、“ズレた感動”を街歩きの中で楽しむ番組とも言えるでしょう。ポイントで登場する専門家の解説が、風景を味わい深い感動にシフトさせてくれているのです。
逆に、なんとなく連れて来られたような旅行だと、街並みや建築物を見て感動したはずなのにあまり記憶に残っていないことがあります。旅先に関する知識が少なすぎたり、そもそも興味がなかったりするからです。
私も、訪問先が歴史ある場所だったことを後から知って、自分の無知を後悔することがあります。見た目に感動しているだけで、歴史や文化といった味わい深いところに感動ポイントがシフトしていないのです。せっかく現地で自分の目で実物を見たのに、それでは、写真を見たのと変わりません。
何の変哲のない場所でも、自分が見た映画のロケ地だと知れば、俄然興味が湧くでしょう。たとえば、俳優の立ち位置やカメラアングルを確認するなど、楽しむことができるようになります。目の前にある風景と自分のちょっとした知識とがリンクして、感動ポイントがシフトするのです。
ちなみに名古屋市科学館では、以前マプサウルスという恐竜の全身復元骨格の展示前で、フジテレビ「ガリレオ」のロケが行われたことがあります。今でも、俳優の立ち位置を確認しているらしきファンの方を時折見かけます。そういう人たちは、同じマプサウルスを見ても、どうやら私とは全く違う感動を得ているようです。
感動するポイントがずれるのは、自分の目で見たものが自分の持っている知識や興味とリンクした時です。知的好奇心をくすぐられると、脳の奥に追いやられていた断片的な知識や経験の記憶が呼び戻されます。見たものと自分の記憶にある知識とが関連付けられたときに、単純な見た目の感動が味わい深い感動に変わります。そして、いつまでも忘れることのない記憶として胸に刻まれるのです。
人の歴史や文化にも結びついている地球科学は、旅行のおともにぴったりです。タモリさんのように、坂や段差に萌え、崖を見ては喜べるようになり、見過ごされていたとしても不思議ではない風景が、みるみる面白くなってくる。そうした「旅の楽しみ」を何倍にも増してくれるのも、地球科学の醍醐味です。
感動ポイントのシフト
風景写真を身近に置いている方は多いのではないでしょうか。パソコンのデスクトップやカレンダーなどに大自然の写真が溢れています。私は、Macintoshを使っているからというわけではないのですが、エル・キャピタンの大絶壁の写真がお気に入りです。