「広報」というと一見、華やかなイメージがありますが、実際には地道で節度ある働きぶりやバランス感覚が求められる仕事です。また、自社の商品やサービスを世間に認知、利用してもらえるかどうかにつながる、経営に直結した責任ある仕事でもあります。

そんな「広報」の戦略を成功させ、広く認知されているのが「Ameba」をはじめとするインターネットメディア運営や広告事業を、展開するサイバーエージェント。

『サイバーエージェント 広報の仕事術』(上村嗣美:著)は、社員がわずか30人だった知名度ゼロのサイバーエージェントに新卒で入社して以来、現在の3000人規模となるまでの広報活動のすべてを知りつくした著者による初めての著書。ここでは同書より、サイバーエージェントの成長の過程とともに著者が現場で体験した広報の仕事をみていきます。

サイバーエージェントにも「スルー」される日々があった

上村さんがサイバーエージェントの新卒1期生として、入社したのは1999年。当時は社員数30人のまだ知名度のないベンチャー企業の一つでした。しかしすぐに、ネットバブルが到来し、その波にも乗って2000年3月に東証マザーズに上場を果たします。

ところが上場直後にネットバブルが崩壊し、広報としてメディアに情報を発信しても「スルー」される日々、耐え忍ぶ時期が続きます。

そんな風向きが変わたのが2004年のこと。再びインターネット業界に追い風が吹きだしたタイミングと時を同じくして、会社も黒字化を果たします。また社長の藤田氏の著書『渋谷ではたらく社長の告白』(幻冬舎)の発売をきっかけに、様々なテレビ番組や雑誌による取材が増え、一気に同社の広報戦略に注目が集まり、現在へとつながります。

現在、同社の社員数は3000人規模。この成長の過程を広報の立場から見守り続けた上村氏が気づいた、広報のあるべき姿とはどういったものでしょうか。

Point1. メディアに取り上げられるために必要なのは「時流」と「社流」のマッチング


「自社や商品をメディアに取り上げてもらう!」
広報担当者が目標とすることの1つではないでしょうか。しかし、ただやみくもに情報の露出をするだけでは、残念ながら取り上げてはもらえません。

「会社の商品やサービスは素晴らしいのに、なぜメディアに取り上げてもらえないのだろう……」。その場合、まずはメディアの視点に立って考えることだと上村さんは言います。メディアの先にいる、読者や視聴者となる生活者が興味を持つこととは何か。また季節的なイベントや、世の中で話題になっていることといった、いまの時代の傾向である「時流」をキャッチし取り入れることで、ぐっと取り上げられる確率が上がるということです。

さらに、その「時流」に会社の戦略や注力分野、打出したいイメージなど、会社の流れである「社流」をマッチさせ、つなぎ合わせるのが広報の腕の見せ所だとか。時流をよみ、メディアに取り上げられたとしても、会社の戦略から外れたものでは、そもそもなんのための広報なのかわからなくなってしまいますね。

Point2. 広報としてのソーシャルメディア活用術


「よし、それじゃあ時流と社流をマッチさせつつ、情報を露出しよう!」と考えたとき、他媒体に取り上げてもらう記事数やリーチ数を目標として設定とする企業が多いでしょう。なぜなら、会社や商品のことを紹介してもらえる、第三者的立場の記事は、受け手にとって納得感の高いものと考えるからです。

しかし、たくさんのソーシャルメディアが生活に浸透したいま、ブログやFacebook、TwitterといったSNSやコーポレートサイトやオウンドメディアの運営、社内報の発行なども広報の仕事としては大切なものとして忘れてはいけません。

サイバーエージェントの場合、2005年から開始した「サイバーエージェントではたらく広報担当のブログ」で、社内の様子や社員インタビューなどの記事を掲載しています。他媒体による取材ではなかなか取り上げられる機会のない会社の魅力や社風、サービス開発の裏話がログとして残るため、そのブログが検索結果に引っかかり、取材依頼をもらったこともあるそうです。

記事に直結する露出のみを重視するのではなく、自社サイトだからこその視点で「ここでしか見られない」「ちょっとしたサプライズを与えられる独自のネタ」の提供を目指す。それが実は、求めていた他媒体への露出や、会社のファン作りにつながるのです。