社会で「印象がモノを言う」場面はことのほか多いもの。実力はあるのに「見た目や動作、ふるまい」によって損をする人は後を絶ちません。

生まれ持っての容姿は容易に変えられませんが、ふるまいについては「周囲にどういった印象を与えているだろうか……」と振り返ることができます。そこで、日本人の知恵の集積ともいえる「小笠原流礼法」から、美しい大人のふるまいを学んでみましょう。
(記事中イラスト:いずみ朔庵)

「小笠原流礼法」とは

「学生時代に弓道をやっていた」という人であればご存じかもしれませんが、最初に「小笠原流礼法」とはどういったものなのかを簡単に解説しましょう。

小笠原流礼法とは、かつて武士たちが学んでいた行動規範です。もともと小笠原流とは「礼法」「弓術」「弓馬術」などを総じて意味するものなので、礼法もそのなかの一部分であると言えます。

小笠原流の歴史は850年におよび、源頼朝以来、鎌倉、室町、江戸と続いた武家政権で将軍家指南役を務めた小笠原家が、その伝統を受け継いできました。2016年1月現在、小笠原流の宗家となっているのは第三十一世の小笠原清忠氏。ご子息であり、次期宗家となる小笠原清基氏とともに「弓馬術礼法小笠原教場」の門人指導にあたるほか、流鏑馬や大的式といった全国各地で行なわれる神事の執行に努めています。

ここまで小笠原流礼法の歴史にふれたところで、「小笠原流礼法にみる美しいふるまいと具体的な体の使い方」を次期宗家・清基氏の著書『小笠原流 美しい大人のふるまい』から見ていきましょう。

美しい姿の基本は「体の中心を意識すること」

本来「武士の礼法」であっただけに、ムダを削ぎ落としたシンプルな美しさが小笠原流礼法の特徴です。もし、挙措動作に装飾的な意味合いしかないムダな動きが含まれていれば、それが隙となって、戦場で命を落としかねないからです。

したがって、小笠原流礼法では身体をねじったりひねったりするようなムリな動きも戒めてきました。常に次の動作に移ることができるよう身体の中心を意識して、どっしりと安定感のある動きが求められるわけです。落ち着いたふるまいを心がけるには、こうした動きがよいお手本になるでしょう。

立ち姿

小笠原流礼法では、基本的に自然体を心がけるよう教えています。

ただし、自然体といっても「だらりと全身から力を抜けばよい」というわけではありません。小笠原流で教える「自然体を心がける」とは、「身体の中心を意識して、前後や左右に偏ることなく、身体の一部にだけ力が入るような不自然な姿勢を戒める」というものです。これは、武家の時代に「どの方向から敵が斬りかかってきても対応できる」ことが重視されていた名残です。

ただ、一口に「身体の中心」を意識するといっても、中心の位置を正しく理解している人は少ないでしょう。ここでは「身体の重心(体重をかけるポイント)を移動させたとき、前後左右で偏りが無くなる位置=身体の中心」として説明します。

さて、両足を平行にしてそろえて自然に立ったとき身体の中心はどこにくるでしょうか?