昔から、部下や生徒などを指導する時には、「アメとムチを使え」といわれます。やさしい側面と厳しい側面を使い分けることで人を育てていく、という考えですが、実際にそのようにしてみても、思い通りにいかないと感じる人も多いのではないでしょうか。
実はこれ、心理学的にいうと必ずしも効果的ではないのです。なぜなら、一回強く叱られると、叱られることを恐れるあまり、結果を出す(=アメをもらう)ために必要な、試行錯誤していく過程すら放棄してしまうからです。
もしあなたがリーダーとして、この「アメとムチ」指導法を採用していた場合、「意欲がなくて自分から動こうとしない」部下を多数作り出してしまうことにもなりかねないのです。
必要なのは「アメとムシ」
では、どのようにして人を動かすのが望ましいのでしょうか。『フシギなくらい見えてくる! 本当にわかる心理学』の著者、植木理恵氏は、本書の中で「アメとムシ」という言葉で理想的な指導法を説いています。
相手が望むようなことをしてくれた時には、褒めるなどしてアメを与えることは同じですが、もし望まない結果になった場合には、非難したり叱責するのではなく、単に無視してやり過ごす、というものです。
たとえば、恋人から積極的に電話をかけてほしい時には、そのことを直接口で言ったりするのは逆効果。なかなかかけてこない場合でも怒ったりせず、実際に電話があった時に感謝の言葉を伝えながら、うれしそうに話をするのです。これが心理学的に見れば理にかなった方法であるといえます。
2種類のモチベーションの違い
乳幼児が周囲の環境に対して示す行動を見ればわかるように、人の意欲や好奇心は本来、とどまるところを知らないほど大きなものです。多くの人が成長するにつれてそのような意欲を失ってしまうのは、学習で何かを身につけたとしても、それに対して価値を見出せず、「努力するだけ無駄」と思ってしまうからです。
そのため、やる気を高めるためのモチベーションが必要となるわけですが、これには大きく分けて2つの種類があります。
ひとつは、「外発的モチベーション」といわれるもの。これは、頑張ることで物理的な報酬や評価を得ようとする意欲です。もうひとつは、「内発的モチベーション」といわれるもので、仕事等の内容に対して、面白さ、使命感、充実感を感じる意欲です。
一般的に内発的モチベーションの方が、外発的モチベーションより動機としては強いと言われています。この2つのモチベーションの違いに気づかず、たとえば勉強に対する内発的モチベーションが高い子供に「テストで満点取ったらゲームを買ってあげる」などと物理的な報酬を提示すると、かえってモチベーションの質を低くしてしまいかねないので注意が必要です。