人名・地名 おもしろ雑学

日本で一番多い名字は佐藤で、2番目が鈴木といわれています。しかし、「本当?」と思っている人も多いのではないでしょうか。東京の周辺に住んでいる人は違和感がないでしょうが、関西の人だと、一二を争うのは山本と田中だろう、と思っています。

交通が便利になって、東京からだと、離島や山中を除いてほとんどの所に日帰りできるようになりました。でも、日本は狭いようで、まだ地域差は残っています。そんな日本を名字や地名からみつめ直してみたいと思っています。

著者プロフィール

森岡 浩(もりおか・ひろし)

姓氏研究家・野球史研究家。1961年高知市生まれ。土佐高校を経て早稲田大学政治経済学部卒。学生時代から独学で姓氏研究を始め、文献だけにとらわれない実証的な研究を続けている。一方、高校野球を中心とした野球史研究家としても著名で、知られざる地方球史の発掘・紹介につとめているほか、全国各地の有料施設で用いられる入場券の“半券”コレクターとしても活動している。

現在はNHK「日本人のおなまえっ!」解説レギュラーとして出演するほか、『名字の地図』『高校野球がまるごとわかる事典』(いずれも小社刊)、『名字の謎』(新潮社)、『日本名字家系大事典』(東京堂出版)など著書多数。

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近鉄土師ノ里駅にて

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2012/10/01 11:18

大阪の近鉄阿倍野橋駅から近鉄南大阪線の準急で20分ほどいったところに、「土師ノ里」という駅がある。



土師ノ里駅


文字通り、古代豪族の土師氏がいた地だが、現在の地名では、大阪市藤井寺市道明寺1丁目。「土師」という地名は残っておらず、駅前の交差点の看板に「土師の里」とある程度。ただし、看板では「ノ」ではなく「の」を使っている。



交差点の看板


土師氏とは、古代古墳に副葬する埴輪を作った氏族。埴輪(はにわ)を造る工人たちを「はにし」と呼び、これに土師の漢字があてられ、やがて読み方が「はじ」に変化した。確かにこの付近には誉田御廟山古墳(こんだごびょうやまこふん,応神天皇陵)など、古市古墳群と呼ばれる多くの古墳が並んでいる。

しかし、古墳の造営が下火になるとともに土師氏の活躍の場も減り、その勢力も衰えていった。そこで、土師氏の一部が、天皇の許可を得て、埴輪の制作から学問を担当する氏族に転じた。これが菅原氏と大江氏で、平安時代にはその子孫からは菅原道真や大江匡房らが出て、学問の氏族としての名を高めている。

現在では「土師」を名乗る人は少なく、読み方も「はせ」や「はぜ」に変化している人も多い。ルーツの地も地名としては無くなってしまったが、「土師ノ里」という、いかにもルーツを示すような駅名として残している近鉄に敬意を表したい。
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