人名・地名 おもしろ雑学

日本で一番多い名字は佐藤で、2番目が鈴木といわれています。しかし、「本当?」と思っている人も多いのではないでしょうか。東京の周辺に住んでいる人は違和感がないでしょうが、関西の人だと、一二を争うのは山本と田中だろう、と思っています。

交通が便利になって、東京からだと、離島や山中を除いてほとんどの所に日帰りできるようになりました。でも、日本は狭いようで、まだ地域差は残っています。そんな日本を名字や地名からみつめ直してみたいと思っています。

著者プロフィール

森岡 浩(もりおか・ひろし)

姓氏研究家・野球史研究家。1961年高知市生まれ。土佐高校を経て早稲田大学政治経済学部卒。学生時代から独学で姓氏研究を始め、文献だけにとらわれない実証的な研究を続けている。一方、高校野球を中心とした野球史研究家としても著名で、知られざる地方球史の発掘・紹介につとめているほか、全国各地の有料施設で用いられる入場券の“半券”コレクターとしても活動している。

現在はNHK「日本人のおなまえっ!」解説レギュラーとして出演するほか、『名字の地図』『高校野球がまるごとわかる事典』(いずれも小社刊)、『名字の謎』(新潮社)、『日本名字家系大事典』(東京堂出版)など著書多数。

●サイト(オフィス・モリオカ)
  → https://office-morioka.com/
●ツイッター
  → http://twitter.com/h_morioka
●facebookページ
  → https://www.facebook.com/officemorioka/
●Instagram
 → https://www.instagram.com/office_morioka/

 

入船さんと入船地名

このエントリーをはてなブックマークに追加

2008/12/08 11:05

7日の福岡国際マラソンでは、エチオピアのケベデ選手が2時間6分10秒の大会記録で優勝、次いで入船敏選手が2位に入って世界選手権代表の座を射止めた。とはいえ、優勝したケベデとは3分以上の差があり、世界の壁は相当厚いと感じざるを得ない。

かつては、福岡国際の優勝者は世界のトップとして認められ、上位は日本人選手が独占していたことを考えると、隔世の感がある。2時間9分台という記録も、かつて瀬古や宗兄弟、中山竹通らが走っていた20年以上前と同じで、4分台から5分台で争う世界とは大きな差ができている。

さて、日本人トップの「入船」という名字、珍しいと感じただろうか。別に難読ではないし、「入船」という言葉字体も特に変ったものではない。東京都中央区には入船町がある他、浦安市のJR新浦安駅前など、入船という地名も各地にある。

しかし、中央区の地名は昭和46年の住居表示でできたもの、浦安の地名も埋立地につけた地名で新しい。こうした新しい地名は名字のルーツとはなりえない。

では、入船さんはどれくらいいるかというと、全国で千人強くらい。名字ランキングでは5000位台を下まわる付近で、“普通”と“珍しい”のはざまあたりか。分布は九州・瀬戸内・阪神地区で、きっぱりと海沿いに分布している。入船敏選手は鹿児島の出身。

港町では、船が入ってくることを無条件で歓迎した。荷下ろしだけでなく、船乗り達の落とすお金が大きかったからだ。江戸以前の船乗りは命懸けで給金もよく、湊に入ると気前よくお金を使ったのだ。

「入船」さんのルーツは、地名というより、「入船」によって潤った人達の名字だろう。その後、埋立地などを中心に各地に「入船」という地名ができた。基本的には同じような場所なのだが、お互いに直接の由来関係があるとは限らない。

なお、「出船」という名字もある。こちらはかなり珍しいもので、瀬戸内海沿岸に点在する。わざわざ「出船」を名字とするからには、何か特別な由来があるのだろう。
このエントリーをはてなブックマークに追加

ページのトップへ