日本で一番多い名字は佐藤で、2番目が鈴木といわれています。しかし、「本当?」と思っている人も多いのではないでしょうか。東京の周辺に住んでいる人は違和感がないでしょうが、関西の人だと、一二を争うのは山本と田中だろう、と思っています。
交通が便利になって、東京からだと、離島や山中を除いてほとんどの所に日帰りできるようになりました。でも、日本は狭いようで、まだ地域差は残っています。そんな日本を名字や地名からみつめ直してみたいと思っています。
2006/05/15 09:33
関東地方では、ゴールデンウィーク後、連日の雨である。五月だというのに肌寒い日も多く、「五月晴れ」の日などほとんどない。今回は、五月らしい日々の到来を願って、「五月」にちなむ名字をみてみよう。
文字どおりの「五月」さんは珍しく、広島などにごくわずか。兵庫県中心に分布する「皐月」の方がまだ多い。しかし、いずれも“稀少姓”の範疇である。五月にちなむ名字で圧倒的に多いのは、「五月女」である。
「さおとめ」という名字は普通「早乙女」と書き、栃木市を中心に栃木県南部に集中している。「五月女」も栃木県独特の名字だが、分布はちょっとずれており、宇都宮市や小山市に多い。年配のプロ野球ファンなら、西武や大洋で中継ぎ投手として活躍した五月女豊(鹿沼出身)を覚えているのではないか。
でも、「五月女」でどうして「さおとめ」と読むのだろうか。
「さおとめ」とは、もともと稲の苗を植える女性を指す言葉である。「さ」とは田の神様を意味し、田植えに使う苗を「早苗」、植える女性を「早乙女」といった。ついでにいえば、田植えをする男性は「早男」で「さおとこ」という。つまり「早乙女」が本来の表記で、名字でも「早乙女」の方が多い。
ところが、名字の世界では、分家と本家や、住んでいる地域の違いなどで、微妙に漢字を変えることは珍しくない。この場合、単純に同じ音の漢字に置き換えるのが普通だが、中には意味を汲み取っていわば“意訳”するという高等技術を駆使することがある。
「さおとめ」の場合は後者。この地方では、イネの苗を植えるのは五月頃。従って、「五月女」で「さおとめ」と読ませるのだ。「さおとめ」一族は県南部一帯に広がり、南部地域だけでランキングを作成すると、おそらくベストテンにも入っているのではないだろうか。また、音便変化して「そうとめ」と読むことも多い。ちなみに平家の末裔、と伝えている家が多いようである。