真田の戦いには、閉塞感を打ち破るヒントがある
──ご執筆の動機でもあると思いますが、なぜいま、真田氏に着目すべきと考えられたのでしょう。
私は「小が大に勝つ」とは何か、そのために「小」は何をなすべきかということをずっと追求してきました。いま、企業を取り巻く環境を見てみるとグローバリゼーションが進み、大企業によるM&Aなど、ますます「大」が有利になる状況にある。個人対企業という枠で考えても、個人が企業にないがしろにされる傾向は、全体として強まっているといえるでしょう。
こういう閉塞感の漂う時代のなかで、「小が大に勝つ」ことの重要性はますます高まっています。小さな会社や個々人がいかに生き残っていくのかを考えるうえでも大事ですし、その閉塞感を突き抜けていく突破口のヒントになれば、という思いがあります。
典型と申しますか、真田氏ほど「小が大に勝つ」ということにおいてめざましい成果を上げ、光り輝いた人たちは歴史上そう多くはないと思うんです。世の中で真田への関心が高まり出すこのタイミングで出版する意義は大きいと考えました。
──歴史をビジネスに活かしたり、個人が生きるうえでの糧にするには、どのようなスタンスが必要でしょうか。
私自身、幼い頃から、「小が大に勝つ」ところに歴史の醍醐味を感じ、長じてからは「戦略」の醍醐味もそこにあったことに気づいて、いまでは「ランチェスター戦略」という戦争理論を原点とした競争戦略の専門家として活動しています。
近年は専門分野と関連しながら、それとは別建てで本を書かせていただいたり、講演などもさせていただいています。こちらはいわば私のライフワークです。
歴史は、単なる懐古主義や教養としてのみ身につけるものでもなく、いまを生きる私たちにとって、未来を切り拓いていくヒントの宝庫であると思います。ヒントとするために押さえておくべきポイントは大きく2つあると思っています。
1つは、大河のごとき歴史の大きな流れのなかに、いまを生きる私たちも位置づけられているわけですから、歴史の流れの変遷をつかんでおくことが非常に大事です。
「ランチェスターの法則」で読み解く真田の戦略
もう1つは、歴史の流れを縦軸とするなら、横軸として、その時代時代を生きた人々の生きざま、生き方、考え方、行為・行動というものがある。いわば物語ですね。一説に、英語のstory(物語)は、history(歴史)のもとの言葉であるラテン語のヒストリア(historia)からきているそうです。
大きな歴史の流れと、流れに翻弄されながらも、己を見失わずに生きていった人々の物語。その2つを学ぶことが、いまを生きる私たちにとって重要なヒントになると思います。その点から考えても真田氏はお手本といえます。
──最後に、本書の読みどころと特徴をお聞かせください。
本書では、真田氏の戦いのみにフォーカスして、「小が大に勝つ」戦いの本質を、真田の兵法から導き出しています。戦いを評価する判断基準として、私の専門分野である「ランチェスターの法則」を軸に「孫子の兵法」も用いました。真田の戦いぶりを描きつつ、「小が大に勝つ」原則に基づいて評価していきます。「ランチェスターの法則」に関する、私の最近の研究成果も盛り込んでいますので、ランチェスター戦略や戦術・戦略論に興味のある方にもお役に立てると思います。
幸隆、昌幸、信之と、文中では幸村と表記しましたが、信繁までの真田氏三代四将は、信長、秀吉、家康という三英傑が天下を統一していく流れのなかで、好むと好まざるとに関わらず、統一の「抵抗勢力」の側に属してしまいました。大波をかぶる不利な条件に置かれていた真田氏は「大」を打ち破り、あるいは勝てないまでも負けることなく、一泡も二泡も吹かせました。
逆境を跳ね返した真田氏の戦いを通して、読者の皆さんに勇気やエネルギーが少しでも湧いてくるとしたら、書き手としてこれにまさる喜びはありません。
福永雅文(ふくなが まさふみ)
1963年広島県生まれ。関西大学社会学部卒。戦国マーケティング株式会社代表取締役、NPOランチェスター協会常務理事・研修部長、ランチェスター戦略学会常任幹事。小が大に勝つ「弱者逆転」を使命とし、わが国の競争戦略のバイブルともいわれるランチェスター戦略を伝道する。企業の営業戦略づくりを指導するとともに全国各地で企業研修・講演を行なう。歴史研究をライフワークとし、「歴史に学ぶ戦略経営」がもう一つの講演・執筆テーマ。著書に『ランチェスター戦略「一点突破」の法則』『ランチェスター戦略「小さなNo.1企業」』(以上、日本実業出版社)、『世界一わかりやすいランチェスター戦略の授業』(かんき出版)、『黒田官兵衛に学ぶ経営戦略の奥義 “戦わずして勝つ! “』(日刊工業新聞社)などがある。